東京高等裁判所 昭和31年(ラ)476号 決定
抗告人 中沢嘉次
相手方 坂寄菊次 外一名
主文
原決定を取消す。
本件担保取消決定申立を却下する。
理由
本件抗告理由は別紙抗告理由記載のとおりである。
よつて東京高等裁判所昭和三〇年(ネ)第二一〇二号(原審東京地方裁判所昭和二九年(ワ)第五一四一号)事件記録を調査すると、抗告理由記載のとおり、相手方から抗告人にたいする請求異議の訴の提起、これにたいする相手方の請求棄却の判決があり、また東京地方裁判所の強制執行停止決定および東京高等裁判所の仮執行宣言ある判決の執行停止決定がなされたことを認めることができる。
しかし、東京地方裁判所がした右強制執行停止決定によれば、同決定において相手方をして立てさせた保証金三万円は右決定による強制執行の停止により、執行債権者たる抗告人に生ずることあるべき損害を担保するものであることは明白であるところ、(ちなみに、記録によれば、右請求の異議の目的たる債務名義にもとずく請求金額は金三十六万円とこれにたいする利息金八万二千八十円であることが認められる。)東京高等裁判所のした前記停止決定のために相手方をして立てさせた保証は東京地方裁判所のした決定により生ずることあるべき損害の担保とは関係がなく、右高等裁判所のした停止決定によりあらたに抗告人に生ずべき損害を担保するものであり、この見地から右担保を立てしめ、かつその額を決定したものである。
よつて前記昭和二九年(ワ)第五七四一号事件について仮執行宣言ある一審判決の言渡があり、かつこれに対して控訴がなされた結果、高等裁判所において仮執行宣言にもとずく執行停止を命ずるについて保証を立てさせた事実があることは、これをもつて東京地方裁判所のした強制執行停止決定についての担保の事由がやんだものとすることはできない。
しかるに相手方の本件担保取消決定申立書によれば右事由にもとずいてその申立をしたものであつて、理由のないことは明白であるからこれを許容した原決定は失当たるをまぬがれない。
よつて原決定を取消し本件申立はこれを却下し、主文のとおり決定する。
(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)
抗告の理由
一、抗告人は東京法務局所属公証人斎藤喜市作成第一五五二九四号の執行力ある公正証書正本に基ずき相手方等に対し強制執行を為した処相手方等は東京地方裁判所昭和二十九年(ワ)第五七四一号を以て右強制執行に対し請求異議の訴を提起し且つ昭和二九年(モ)第八一一五号を以て強制執行停止決定の申立を為した而して右申立に対し裁判所は相手方等の申立を理由ありと認め昭和二十九年六月三日相手方等に金三万円の保証を立てさせて右債務名儀に基く強制執行は本案判決あるまでこれを停止する旨の決定をした。
二、而して右の本案判決は昭和三十年十月二十二日次の通り言渡があつた。
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
本件につき昭和二十九年六月三日なされた強制執行停止決定を取消す。
前項に限り仮りに執行することが出来る。
三、相手方等は右判決に対し上訴し現在本件は東京高等裁判所に繋属中である。
而して相手方等は更に強制執行の停止を申立て右の決定によつて金七万円を保証として供託した。
茲に於て相手方等は担保の事由止みたりとして担保の取消決定の申立を為し東京地方裁判所は右の担保取消の決定を為したのであるが、相手方等は本案判決に於て敗訴して居る故担保の事由止んだと言う事は出来ない。従つて原決定は取消さるべきものと解する。